管理費を滞納する区分所有者への対応
管理費等の滞納への対処は管理組合の重要な役割
マンションは、区分所有者からの管理費・修繕積立金がなければ、管理が行き届かず、やがては廃墟となりかねません。
国土交通省が発表した平成30年度マンション総合調査によると、同年度での管理費等の滞納がないマンションの割合は、62.7%となっています。
約4割のマンションでは滞納が発生していることになります。
滞納が発生しているマンションのうち、滞納戸数の割合が0%超~10%以下のマンションが24.4%、10%超のマンションが0.2%となっています。
また、完成年次が古いマンションほど管理費等の滞納があるマンションの割合が高くなる傾向があるとの分析結果が出ています。
マンションは様々な人が住むだけにトラブルも多いわけですが、マンションでのトラブルも第1位が居住者間のマナーをめぐるトラブル。
第2位が建物の不具合に係るトラブル。
そして、第3位が費用負担に係るトラブルとなっています。
このように管理費等の滞納に関するトラブルは、管理組合にとって大変頭の痛い問題となっていることが分かります。
初期段階での管理費等の滞納への対処方法
マンションの住民が管理費等を滞納する原因としては様々なものがあり、原因により対処方法も異なります。
管理組合、管理会社への不満があるから支払いを拒否しているのであれば、管理組合の理事長等の役員が住民から話を聞き、解決するのが基本です。
経済的困窮のために支払えない場合も、まずは役員が話を聞きつつ、対処法を検討します。
弁護士に依頼する等の法的措置を講じる必要が生じるのは、最終手段ということになる場合が多いかと思いますが、事案によっては、早い段階から弁護士が関与した方がより良い形での解決が可能なこともあります。
管理費等は、管理会社が徴収していることが多く、そのような場合は、まず、管理会社から支払いを催促することになります。
3カ月程度の滞納までなら、管理会社による電話、自宅訪問による督促に任せてもよいでしょう。
3カ月経過しても滞納している場合は、管理会社だけでなく、管理組合からも督促しなけれならないと思います。
具体的には、内容証明郵便により催促したうえで、遅延損害金も発生する旨を伝えます。
6カ月経過しても滞納している場合は、もはや、管理会社、管理組合による督促だけでは埒が明かないものとみて、法的措置を講じることを検討しなければなりません。
この段階から、弁護士へ相談される管理組合が多いようです。
管理費等の滞納に係る消滅時効期間
管理費等は、一般的には、管理組合の区分所有者に対する債権になると解されています。(最高裁判所平成16年4月23日判決)
債権であることから、民法166条の規定により、
- ・管理組合が権利を行使することができることを知った時から5年間。
- ・管理組合が権利を行使することができる時から10年間。
のいずれかの期間の経過により、消滅時効が完成し、権利行使ができなくなります。
一般的には、滞納が発生した時から、5年を経過するまでの間に、管理組合が何らかの法的措置を講じなければなりません。
上記で紹介した内容証明郵便による催促は、民法上は「催告」として時効の完成猶予の効力がありますが、猶予期間はわずか6カ月しかないので注意が必要です。(民法150条1項)
管理費等の滞納への法的手段のメニュー
1、支払督促、少額訴訟、民事調停などの手段で回収を図る
いずれも裁判所における手続きの一種ですが、通常の訴訟よりも簡易な手段です。
滞納額が少ない場合などは、弁護士に依頼する前の段階に、こうした手段を用いて催促することも考えられます。
2、弁護士を交えた交渉により支払いを求める
弁護士を介するなどして、管理組合と滞納者の間で話し合いを行います。
滞納者に管理費等の滞納があることを認めさせた上で、滞納している管理費等の具体的な支払方法について協議を行い、合意書(覚書)などを交わします。
この際、可能であれば、公証役場で公正証書を作成してもらい、公正証書に強制執行の認諾文言を盛り込むことで、滞納者が合意内容を守らない場合に備えることが望ましいでしょう。
3、民事訴訟を提起する
簡易な裁判手続きや個別の交渉によっても埒が明かない場合や滞納額が大きい場合は、通常の民事訴訟の提起を検討することになります。
管理組合において理事会決議等の手続を経た上で弁護士に委任し、訴訟を提起します。
訴訟の結果、和解に基づいて支払を受けたり、和解が決裂しても勝訴すれば、滞納者が所有する専有部分を差し押さえた上で強制競売することができるようになります。
また、管理組合が区分所有者に対して有する債権については、区分所有者の区分所有権及び建物に備え付けた動産の上に先取特権を有するとされています。(区分所有法7条)
そのため、滞納額の支払い請求につき、裁判を経ずに担保競売の申立てをすることもできます。
ただ、滞納者が支払ってくる可能性があるなら、裁判を提起して和解により分割払い等の取り決めをした方がよい場合もあります。
このあたりの判断は難しいので、専門家である弁護士に御相談ください。
管理費等の滞納が多額の場合
管理費等の滞納が続き多額になっている場合は、滞納者は経済的に困窮しているなどの事情があり、住宅ローンも滞納しており、もはや、裁判手続きを経て、強制競売や担保競売を行なおうとしても、無剰余取消により強制競売が取り消されてしまうことも考えられます。
例えば、専有部分の売却見込み額が1000万円だったとして、住宅ローンの残債務が1500万円だとすると、管理組合が競売を申し立てても、売却代金は住宅ローンの残債務に充当されて、管理組合が滞納額を回収することができません。
これを無剰余取消といって、管理組合による競売の申立てが取り消されることになります。
この場合に管理組合が取りうる最終手段として区分所有法59条に基づく「区分所有権の競売請求訴訟」があります。
簡潔に言えば、滞納者をマンションから強制的に追放する手段です。
滞納者の占有部分を空室にした上で新しい区分所有者に購入してもらい、新しい区分所有者に滞納管理費等も支払ってもらうことになります。
かなり、強力な手段なのでよほどのことでない限り行使できません。
- ・区分所有者の共同生活上の障害が著しい。
- ・他の方法では解決を図ることが困難である。
このような場合に、滞納区分所有者に弁明の機会を付与したうえで(区分所有法58条3項)、総会での特別決議を経て(区分所有法58条2項)、訴えを提起します。
さらに裁判所でも請求の適否を判断します。
管理費等の滞納者がいる場合は早めに弁護士等の専門家へご相談ください
管理費・修繕積立金は、マンションを維持運営するための不可欠の費用です。
一人でも滞納者がいれば、同調して滞納する人が増えて、マンションを維持することが困難になりかねません。
滞納者が多いマンションは購入者から敬遠されますし、買い手が付かず空室が目立つようになると、やがてゴーストマンションとなりかねません。
管理費等の滞納のために強制競売が行われたと言ったようなうわさが広がると、住民も不快な思いをしてしまいます。
その様な事態にならないようにするためには、滞納者がいる場合は早めに弁護士等の専門家にご相談いただく事が大切です。
