家賃滞納による明渡し,滞納家賃回収
建物を貸している場合、家賃を何か月も滞納されるケースがあります。
その場合、勝訴判決を得て、強制執行により賃借人を退去させることが可能ですが、スムーズに手続きをしないと家賃の滞納期間が長くなるリスクがあります。
また、滞納家賃の回収方法も知らないと、大きな損失を被る可能性があるでしょう。
そこで、本記事では家賃滞納で明渡しを求める方法や流れ、滞納家賃の回収方法についても解説します。
立ち退きや明渡しを求める2つのパターンとは?
家賃滞納などで立ち退きや明渡しを求める際の手続には、主に下記2つのパターンが想定されます。
大まかに違いを把握しておきましょう。
① 任意で賃借人と明渡しの交渉を行う
任意で明渡しの交渉を賃借人と行う場合は、いつまでに明渡しをするか取り決めます。
引越しの期間は必要ですので、明渡しに多少の時間が掛かるのは仕方ないでしょう。
書面で、明渡しまでの期間や、賃借人が残した残置物の所有権・処分等についての取り決めも交わします。
② 勝訴判決に基づく強制退去で明渡しを求める
賃借人と連絡が取れない、明渡しに応じてくれないなどの理由で賃料回収が難しい場合には、勝訴判決を得て、強制執行をします。
なお、賃借人に無断で鍵交換を行う・荷物を勝手に運び出すなどの行為は違法となるため注意しましょう。
強制執行による明渡しまでの流れについて
強制執行に至るまで、下記のような流れで手続き等を行います。
交渉での明渡しが難しい場合に備えて確認しておきましょう。
① 賃貸借契約の解除
まずは家賃滞納があった場合に支払いの催告を行い、それでも滞納が続けば賃貸借契約の解除を行います。
賃貸借契約の解除は、おおよそ3カ月分程度の家賃の滞納で認められるケースが多くなっています。
なお、催告や賃貸借契約の解除の通知は内容証明郵便で行いましょう。
裁判になった時の備えとして、いつ通知をしたのかや相手方に通知が届いているのかを記録できますので、必ず内容証明郵便にて通知してください。
② 明渡しの交渉・訴訟
賃貸借契約を解除した後は、賃借人に明渡しの交渉を求めていきます。
まずは任意での話し合いを行い、明渡し期限や滞納家賃の支払い、引っ越し費用の負担などについて取り決めます。
この時点で合意となれば明渡しとなるため強制執行の手続きは必要ありません。
話がまとまった後は明渡しの合意書を交わし、期限までに荷物等を運び出してもらいます。
最後に建物の状況等を確認し、問題がなければ明渡しとなります。
賃借人が任意での話し合いに応じない場合には、明渡しを求める訴訟を提起します。
訴訟では、未払賃料についても支払を求めるようにします。
③ 判決・強制執行
上記訴訟において和解が成立したり、明渡しの判決が出た後に、賃借人が任意で退去すればそれでよいのですが、それでも賃借人が明渡しに応じなければ、強制執行で明渡しの断行を行う手続きを実施します。
強制執行では、事前に裁判所の執行官と入居者の家族構成・健康状態・抵抗が予想されるかどうか等の確認を行います。
確認や協議が終わった後は、執行官が明渡しの場所で入居者に明渡し期限の説明、催告書の交付等を行います。
なお、入居者が放置した家財道具の撤去をする可能性もあるため、事前にどのくらい量があるかも確認しておくと良いでしょう。
催告を行っても賃借人が応じなければ、明渡し断行となり部屋内の物品等を搬出、鍵交換を行って明渡しとなります。
④ 事後処理等
明渡し断行後、搬出した荷物等は賃借人が取りに来られるよう、倉庫で1ヵ月間保管します。
1ヵ月経過後も賃借人が荷物等を取りに来ない場合には、売却や廃棄を行うことができます。
なお、執行官に支払う手数料・荷物の搬出費・鍵交換費用などは、賃借人に資力がないケースが多いため、賃貸人が支払う可能性が高いので注意が必要です。
また、強制執行の申立てから完了までに1~2ヵ月ほど掛かり、その間の賃料収入を得られないデメリットもあります。
したがって、なるべく裁判に基づく強制執行ではなく、任意での明渡しで早期に物件を取り戻す方が損失も少なく済むでしょう。
滞納家賃を回収する手続き
未払となっている滞納家賃は、主に下記のような方法や手続きで回収できる可能性があります。
① 連帯保証人への請求
賃借人に家賃の支払い能力がない場合、連帯保証人がいれば滞納された家賃を回収できる可能性があります。
賃借人からの滞納家賃の回収が難しい場合は、速やかに連帯保証人へ請求して、滞納額が増えないようにしましょう。
② 支払督促手続
債権者(賃貸人)が申し立てを行うことで、簡易裁判所の書記官が債務者(賃借人)に対して支払督促を出すことのできる手続きです。
賃借人から「督促異議」が出ずに弁済されれば解決となり、逆に異議が出されれば通常の訴訟手続きに移行します。
③ 少額訴訟手続
資力のない賃借人の事情に配慮した柔軟な判決を出せる訴訟手続きです。
金銭の支払時期や支払方法に条件を付けられるため、分割払いの定めにすることも可能です。
家賃滞納による明渡しや滞納家賃の回収には専門知識が不可欠!
賃料未払で立ち退きや明渡しを求めるパターン、強制執行時の流れ、滞納家賃の回収手続きのご紹介もしました。
家賃滞納で明渡しや滞納賃料の回収を図るためには、賃借人と円滑に交渉するノウハウや法的な知識・手続きの理解が不可欠と言えます。
自力での建物の明渡しや滞納家賃の回収は難しいため、早い時期から不動産に詳しい弁護士などに相談するようにしましょう。
