借地上の建物をリニューアルしたい
借地契約における増改築禁止特約がある場合は、借地上の建物のリフォーム工事などを行う際に、地主の承諾を得なければならないこともあります。
しかし、地主の承諾が必要ない工事なのに、地主から工事の中止を求められてしまうことや、必要な増改築、大修繕なのに地主が承諾してくれないこともあります。
このような場合は、不動産問題に詳しい弁護士に相談し、裁判手続の利用なども検討すべきです。
目次
1.借地と建物の法律関係
地主との間で借地契約を締結する場合、土地については地主との間で借地契約を締結しますが、借地上に建てる建物は、借地人が自ら費用を負担して建てるのが一般的です。
そのため、借地上の建物の所有者は借地人ですから、借地人は、基本的に建物をどのように扱っても問題ありません。
自分で建物に住むことはもちろん、第三者に賃貸することもできます。
地主の承諾が必要になるのは、建物を第三者に売却する場合です。
この場合は、建物だけでなく、借地権も譲渡する形になるため、民法612条に基づき、地主の承諾を得なければなりません。
2.借地上の建物を増改築する場合に地主の承諾が必要になる場合もある
ところが、建物を第三者に売却する場合以外にも、地主の承諾が必要になることがあります。
借地上の建物を増改築する場合に、地主の承諾を得なければならない旨が、借地契約に盛り込まれている場合です。(借地契約における増改築禁止特約)
借地契約には存続期間がありますから、その存続期間を超えて維持できるような建物を建てられては地主としては困ります。
そのため、地主は、借地人による借地上の建物の増改築について、承諾したり拒否する権利を盛り込むことができるわけです。
借地契約に増改築禁止の特約がある場合は、借地人は増改築に先立って、地主の承諾を得なければなりませんし、一定の承諾料の支払いが必要になります。
2.1地主の承諾が必要な増改築とはどのような工事か?
借地上の建物の工事内容は様々です。
まず、増築とは、建築物の床面積を増やすこと。
改築とは、災害などで消失した建築物や施主の都合で一部を解体した建築物について、以前と大きく変わらない用途、規模、構造で建て直すことを意味します。
それ以外にも、建物のリフォームや修繕、改装といった工事もあります。
修繕とは、設備機器の修理や雨漏りなどの修繕を行い、建物の価値を回復すること。
改装は、内外装の模様替えにより、建物の価値を向上させることを意味します。
リフォームについては、定義は曖昧ですが、一般的には、修繕、改装を指しますが、増築を伴うこともあります。
借地契約では、「増改築」を禁止すると言った定め方になっているだけで、増改築の定義について、細かく規定していることはほとんどありません。
そのため、建物のリフォーム、リニューアルを行うという場合、地主の承諾が必要な増改築に当たるのかどうかが問題となり、地主と借地人の間でトラブルになりがちです。
2.2地主の承諾が必要な増改築なら承諾料の支払いも必要
例えば、建物の外壁や屋根の塗装工事やシーリングの打ち直し工事を行う程度であれば、通常の修繕工事に過ぎませんから、地主の承諾を得ずに行うことができるのが一般的です。
しかし、後で地主とのトラブルになることを避けるべく、念のため、承諾を得ておくのも一つの方法と言えます。
ただ、本当に地主の承諾が必要な増改築に当たる場合は、地主に対して承諾料の支払いが必要なので、本来なら、地主の承諾が必要ないのに、地主に文句を言われた挙句、承諾料の支払いも求められてしまうこともあります。
そのため、明らかに、地主の承諾が必要ない通常の修繕工事であれば、増改築に該当しないという毅然とした主張が必要になることもあります。
2.3大修繕は地主の承諾が必要なのか?
通常の修繕工事は、基本的に地主の承諾を得ずに行えますが、「大修繕」の場合は、問題となることもあります。
借地契約によっては、増改築だけでなく、大修繕も地主の承諾が必要になると明記されていることもあります。
では、大修繕とは何でしょうか。
この点は、借地契約書の趣旨から読み取るしかありませんが、次のような裁判例があります。
- ・「建物の主要構造部分の全部ないし過半を取り替える工事のように、建物の耐用年数に大きく影響を及ぼすような工事」(東京地判平成24年11月28日)
- ・「増改築と同程度に地主に影響を与える工事」(東京地判平成26年5月19日)
- ・「建物の柱、土台等の主要構造部分の取替えや屋根の全面葺替えなどによって、通常予期すべき以上に建物の耐用年数に大きく影響を与えるような修繕」(東京地判平成28年3月9日)
具体的には、建物の主要構造部(壁、柱、床、はり、屋根、階段)を取り替えるような工事だと、大修繕と判断することになります。
建物のリフォーム、リニューアル工事の内容に、主要構造部の工事が含まれている場合には注意が必要です。
3.地主の承諾を得ずに増改築・大修繕工事を行うと借地契約が解除される
地主の承諾を得ずに増改築・大修繕工事を行った場合は、地主から借地契約を解除できると定められているのが一般的です。
建物を解体して新しく建て直した場合は、誰が見ても改築工事に当たりますから、地主から借地契約を解除されても文句は言えません。
しかし、増改築・大修繕工事に当たるのかどうか微妙な場合は、地主が契約解除を主張したとしても、裁判で争う余地があります。
そのような場合は、工事前の現場写真と工事後の写真、具体的な工事内容を示した書類などを用意して、契約解除するほどのものではないと主張することもできます。
4.地主の承諾が必要ない通常の修繕工事であると主張するには?
明らかに地主の承諾が必要ない通常の修繕工事なのに、地主が工事の中止等を求めている場合は、増改築や大修繕工事に当たらないことを主張すべきです。
そのための手段としては、地主から特約に基づく事前承諾を得る義務がないことの確認を請求する訴訟を提起することが考えられます。
確認請求訴訟は、実際に工事を始める前に提起しますが、工事を担当する建設会社などと工事内容を詳細に打ち合わせしたうえで、決めておく必要があります。
5.地主の承諾が必要な工事であるが承諾してくれない場合
地主の承諾が必要な増改築・大修繕工事に当たる場合は、地主の承諾を得なければなりませんが、地主が承諾してくれなければ、工事を始めることができません。
そのような場合は、借地借家法17条2項に基づく「借地権設定者(地主)の承諾に代わる許可」を裁判所に求めることもできます。
増改築を制限する旨の借地条件がある場合において、土地の通常の利用上相当とすべき増改築につき当事者間に協議が調わないときは、裁判所は、借地権者の申立てにより、その増改築についての借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる。
借地借家法17条2項に基づく請求は、裁判所では、「借地非訟事件」として扱い、通常の訴訟手続きとは異なる流れで手続きが進められます。
また、借地非訟事件について、調停手続での解決を試みることもできます。
6.まとめ
借地契約における増改築禁止特約がある場合において、地主が承諾してくれない場合は、裁判所に借地権設定者(地主)の承諾に代わる許可を求めることを検討しましょう。
また、地主の承諾が必要ない工事なのに、地主から工事の中止を求められている場合も、地主の承諾を得る必要がないことの確認を求めるべきです。
借地上の建物のリフォーム工事などで、地主との間でトラブルになっている場合は、不動産問題に詳しい弁護士にご相談ください。
