地代増額を要求された場合
借地契約では、契約時に地代が決められますが、建物所有を目的とする借地契約の期間は最低で30年間となっており、将来、地代の増減額が生じることは予想されます。
では、実際に、地主から地代の増額を求められた場合、借地人としてはどう対処したらよいのでしょうか。
1.地代増額請求の要件
借地人から地代の増額を求められた場合でも、借地人はこれに応じる義務があるわけではありません。
地主が地代増額請求を行う事ができる場合については、借地借家法11条で定められているため、借地人としては、まず、これらのケースに該当するのかどうかを確認すべきです。
1.1土地に対する租税その他の公課の増額により地代が不相当となったかどうか
借地人が地代を設定する場合は、借地人の利益に当たる純賃料だけでなく、土地に対する租税や管理経費といった必要経費も加えて計算しています。
そのため、土地に対する租税、代表例としては固定資産税が増額された場合は、地代の増額を請求できることがあります。
固定資産税が増加したかどうかは、固定資産税納税通知書や固定資産評価証明書によって確認できますから、地主に増額前のものと併せて資料を示してもらいましょう。
なお、固定資産税が大幅に増額された場合でも、無条件で地代等が増額されるわけではないとする裁判例があります(東京高判平成13年1月30日)。
つまり、借地人としては、固定資産税が増額された場合に、必ず、地代の増額に応じなければならないわけではないということです。
参考判例
https://www.retio.or.jp/attach/archive/50-084.pdf
1.2土地の価格の上昇または低下その他の経済事情の変動により地代が不相当となったかどうか
純賃料は、土地価格に期待利回り(利率)を乗じて計算して算出しています。
そのため、土地価格が上昇すれば、地主としては、地代の増額を請求できることがあります。
土地価格が上昇しているかどうかは、公示地価、実勢価格、固定資産税評価額、路線価などから知ることができます。
また、その他の経済事情の変動とは、土地の価格の上昇以外の経済事情の変動のことで、物価指数、通貨供給量、労働賃金指数等の経済指標の変動がこれに当たります。
1.3近傍類似の土地の地代等と比較して地代が不相当となったかどうか
地代は、賃貸事例比較法(取引事例法)と言い、周囲の類似した土地の地代との比較で決められることがあります。
現在設定した地代が、周囲の類似した土地の地代と比較して不相当となった場合は、地主としては、地代増額を請求できることがあります。
1.4賃料が不相当とは?
借地契約締結時は、借地人はもちろん、地主も地代の額に納得して契約を締結しているわけですから、そう簡単に変えられるわけではありません。
地主が地代増額請求権を行使できるのは、上記のケースのいずれかに該当し、地代が不相当になった場合です。
具体的には、地代の合意をした時点を基準にして、当初定めた地代がその後の事情変更により不相当になったと言えるのかがポイントになります。
単純に今の相場と比較して安いからとか、長い間地代改定をしていないからそろそろ改定したいと言ったような理由だけで、地主から地代の増額請求ができるわけではない点に留意しておきましょう。
2.地代不増額特約がある場合
地代不増額特約とは、一定期間は地代を増額しない旨の特約です。
地代不増額特約がある場合、特約に定められた期間内は、基本的に地主が借地人に対して、地代増額請求をすることはできません。
地代が不相当な状態になった場合でも同様です。
そのため、地代不増額特約が有効な期間内は、借地人としては地主からの地代増額請求を無視することもできます。
ただ、特約期間が長過ぎる上に、その期間内に大きな事情変更があったと認められるような場合は、調停や裁判などに持ち込まれたりすると地代増額請求が認められてしまう可能性もあります。
3.地主から地代増額請求された場合の対処法
地主の地代増額請求権の行使方法はいくつかあるため、それぞれの方法により、借地人としての対処法は異なります。
3.1地主から直接交渉により地代の増額を求められた場合
地主からの地代増額請求は、裁判所の手続きにより行うこともできますが、通常は、まず、当事者同士の話し合いによるのが一般的です。
地主との話し合いの結果、地代の増加額が納得できる範囲であれば応じるのもよいですし、納得できない場合は、拒絶することもできます。
なお、地代増額請求権の行使方法については、口頭ではなく、後日の証拠とするために配達証明付きの内容証明郵便を利用して行う方法が推奨されているため、いきなり、内容証明郵便が送られてくることもあります。
この場合は、無視してよいわけではなく、調停や裁判に進む可能性があることも考えて対処法を考えなければなりません。
3.2地主が賃料等調停の申立てを行った場合
話し合いによっても地代増額交渉がまとまらない場合は、地主が簡易裁判所に対して、賃料等調停の申立てを行うことがあります。
地代の増額に関する争いはいきなり、裁判を提起できるわけではなく、調停前置主義と言い、まずは、調停による解決を目指すべきとされています。
調停は、不動産鑑定士を含む民事調停委員を介して話し合いを行うというもので、借地人も定められた期日に出席して自分の意見を述べる必要があります。
調停期日は複数回にわたり設けられ、地主と借地人の双方が納得できれば、調停が成立します。
3.3調停に代わる決定がなされた場合
地主と借地人の間で、わずかな相違があるために完全な合意に至らない場合に調停不成立としてしまうのでは、これまでの調停が無駄になってしまいます。
そこで、民事調停法17条では、調停委員会の調停が成立する見込みがないものの、民事調停委員の意見、当事者双方の衡平などの一切の事情を見て、相当と認められるときは、裁判所が職権で事件の解決のために調停に代わる決定を行うことができる旨が定められています。
調停に代わる決定がなされた場合でも、当事者又は利害関係人は、決定の告知を受けた日から2週間以内に異議の申立てをすることで決定の効力を失わせることができます。
3.4地代増額訴訟が提起された場合
賃料等調停が不成立となった場合は、地主が裁判所に地代増額請求訴訟を提起することもあります。
訴訟を提起されてしまった場合、借地人としては、訴状を確認して地主の主張に不満があるなら、弁護士に依頼して自身の主張を述べなければなりません。
裁判では和解が試みられることも多いですが、不動産鑑定士による鑑定を経たうえで裁判所が地代増額についての判決を下すこともあります。
地代増額を認める判決が確定した場合は、借地人は増加額での地代の支払いに応じなければなりません。
3.5地代増額の裁判が確定した場合に支払うべき地代の額
借地人は地主から地代増額を求められても、増額を正当とする裁判が確定するまでは、自分が相当と判断した額の地代を支払えばよいとされています。
ただ、地代増額の裁判が確定した場合は、地代増額請求を受けた日から増加した地代を支払う義務があったものとされてしまい、不足額と不足額について年1割の利息を支払わなければならなくなります。
4.地代増額請求を受けた場合は弁護士に相談しよう
借地人が地主から地代増額を請求され、その請求額に納得できないと感じているならば、早めに弁護士に相談してください。
地主との交渉を拒否し続けるだけでは、地主から賃料等調停の申立てがなされたり、地代増額訴訟を提起されたりと、事態が深刻化していく懸念があります。
そのため、地主からの地代増額を求める内容証明郵便を受け取ったタイミングで、すでに地代増額をめぐる紛争が始まったものと考えて、不動産問題に強い弁護士に相談すべきです。
